谷崎潤一郎の「細雪」もうひとつの結末を発見
2008年 04月 01日
戦中から戦後にかけて出筆された谷崎潤一郎の代表作「細雪」に、これまで発表されている結末とは別のもうひとつの原稿が残されていたことがわかった。
谷崎の研究者として知られる東京大学文学部の木村加兵衛教授の発表によれば、もうひとつの原稿は、細雪第三部が公表された昭和23年にはすでに書かれていた可能性が高いという。現在の「細雪」は三女の雪子が華族の子息との婚約が決まるところで終わる。
一方、もうひとりの主人公である四女の妙子はバーテンダーの三好との子供を流産するという悲劇的な結末をむかえる。木村教授は「恐らく谷崎は妙子にとってあまりに不幸な結末を変更しようと試みたのではないか」と想像する。
幻の原稿は、芦屋時代に谷崎と親交の深かった医師の旧宅から発見された。新しい原稿では、妙子は長年付き合いのあった船場のぼんぼんである「啓ぼん」と結ばれることが暗示されて終わる。
従来は断ることになっている、満州国で皇帝のお付として仕えるという仕事を「啓ぼん」が受け、妙子も同行することになる。
-------------------------------
「ほな、こいさん、啓ぼんと東京であったんか」
「ふん」幸子の問いに妙子は気のなさそうに答えた。
「啓ぼん、やっぱり、満州に行くことになってん。今、満州国の大使館で訓練受けてるんのんや。なんやしらん支那風の服着てたわ」
「啓ぼん、こいさんに一緒に来て欲しいいうたやろ、どないするん」
「うち、啓ぼんにとってもうちにとっても今度が最後のチャンスや思うねん。きあんちゃんの婚約も決まって迷惑も掛けられへんもんな」
幸子は妙子の言葉を聞きながら、長年の胸のつかえがすっと引いたような気がした。これまでさんざん手こずらされた妙子も、やはり姉の雪子の結婚には人一倍気を使っていたらしいこと、自分自身の将来にもそれなりの配慮を持っていたらしいことが実感できた。
ああ、やっぱり妙子は私たちの妹やという思いがこみ上げてきて、自然と目頭が熱くなるのを感じた。
「啓ぼん、喜んでたやろ」
「それがな、満州行ってもいいでというたら、えらい喜んでローマイヤアで食事でもしようていうことになってん、そんで食べ切れんほど注文してな、ウインナーシュニッツェル、ベーコンとじゃがいも、ポトフみたいなスープに酸っぱいキャベツの漬物、ザワークラウトやったかいな・・・」
-------------------------------
新しい原稿でもうひとつ注目されるのは、妙子が今も銀座にあるドイツ料理店「ローマイヤ」を再度訪問するシーン。これまでの原稿でも妙子は2日連続で「ローマイヤ」を訪れており、「谷崎のローマイヤ好きの証拠」(木村教授)となりそうだ。
木村教授は「従来の細雪の結末を置き換えるかは別として、谷崎文学における大発見」と述べている。
木村教授は今日、舞台となっている銀座の「ローマイヤ」で新原稿にある料理を再現し、研究者やマスコミを集めた発表会を行う。
レストラン・ローマイヤ 中央区銀座8-8-5 2F
谷崎ファンのみなさん、東京大学文学部の木村加兵衛(kimcafe)です(^^ゞ
このたび、細雪の幻の原稿を発表できることを心より嬉しく思います
ついでに私の顔写真も公表しちゃいますね
それでは、来年の4月1日までさよならさよなら(^o^)丿
加兵衛さん男前!
さて晩酌しよ〜(^_^)